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汗が止まらない。 なのに悪寒が続く。 東沢さんは高熱で倒れていた。 一人暮らしなので、誰かが看病をしてくれるということもない。 ただ魘されることしかできなかった。
そんな中、夢を見た。 辺り一面真っ白な所に、東沢さんは立っている。 壁があるわけでもないから、屋外なのかもしれない。 まるで寒さを伴わない雪原のような所だった。 〈……もう、駄目なのですか?〉背後から声が聴こえた。 驚き、振り返る。 そこに女性が立っていた。 白い顔。白い手。白い服。白いものが混じった髪。 (この人は……) 前付き合っていた彼女の母親だった。
〈もう駄目なのですか? あなたは私の娘と本当に別れてしまうのですか〉 そう言う彼女の母親は悲しげな顔をして、東沢さんを見つめていた。 答えに窮していると、また同じ言葉を繰り返す。 〈もう駄目なのですか? あなたは私の娘と本当に別れてしまうのですか〉 そうか。この人は娘と僕の行く末が心配で追いかけてきたんだ……。 しかし。 「すみません。もう元には戻れません」 絞り出すように、そう答えた。
ふいに目が覚める。 見慣れた天井。見慣れた箪笥。愛用の机。 ちゃんと薄暗い自分の部屋のベッドの上にいた。 (いやにリアルな夢だったな……) 流れる汗を拭いながら、東沢さんは大きくため息をついた。
漸く熱も下がったある日のこと。 東沢さんは散歩に出た。 熱で萎えた身体のリハビリと買い物を兼ねて、だった。
病み上がりということもあってか、足元が少々ふらつく。 サンダル履きの足元が、いやに頼りない。 まだまだだな、と顔を上げたとき、驚いた。 (……あれは!?) 透き通るような白い肌。見覚えのある横顔。 通りの向こうに別れたはずの彼女がいた。
(まさか、僕を追いかけて?) いや、それはない。何故なら彼女に新居の住所は教えていない。 大体彼女はここから何百キロも離れた場所に住んでいるのだ。 こんなところに来ることは、ありえない。 だが。
思わず彼女を追いかけた。 彼女はどんどん歩いていってしまう。追いつけない。 (まだ僕は彼女のことを)自分の気持ちに気がつく。 サンダル履きの萎えた足が、恨めしい。 彼女の後姿が路地の陰に入ったところで、遂に見失ってしまった。 路地の奥は袋小路。見失うわけがない。だが、彼女の姿はどこにも無かった。 「くそっ! なんなんだよ!」 諦めきれず、半日かけて辺りを探し回った。 だが、東沢さんが再び彼女を見つけることはなかった。
数日後、友人に電話をした。 別れた彼女のことを訊くためだった。 「お前の元カノ、ずっと病気で寝込んでいるんだぜ。そこに行きたくても行けねぇって」 そういって友人は笑った。 ひとしきり笑ったあと、突然真面目な口調に変わる。 「あとさ。元カノのお母さん、この間亡くなったんだぜ。知ってるか?」 |
by 時計 ¦ 20:42, Tuesday, Nov 28, 2006 ¦ 固定リンク
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