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その日、東沢さんは机の整理をしていた。 長年愛用の机だけあって、いろいろなものが詰まっている。 使いかけのノート。 千切れた消しゴム。 空になったシャープペンシルの芯ケース。 キャップの無くなったボールペン。 使いかけの修正液。 プリントの束。 レシートと領収書、等々。 「我ながら呆れるな」と東沢さんはため息をついた。
作業中、机の奥から万年筆が出てきた。 「あれ? これは」 はた、と膝を打った。 ずっと昔、彼女に貰ったものだ。 (別れてもう何年経ったかな……彼女は今どうしているのだろう?) 懐かしさが込み上げてくる。 「おっと。いかんいかん」 万年筆を机の上に置き、次の引き出しに取り掛かった。 文庫本。手帳。そして、チョーカー。その他いろいろなものがぞくぞく出てくる。 全て当時の彼女がくれたものだった。 (そういえば、結構いい腕時計も貰ったなぁ) と、思い出を反芻していても作業は終わらない。 懐かしむのはあとだ、と作業を再開した。
「ふう、これで最後か」 すでに外に夕闇が迫っていた。 部屋の中は薄暗くなってきている。 一番下の引き出しを開けた。 一番上に、ぽつん、と見知らぬ小箱が乗っている。 手に取ってみると、少し重みがあった。 振ってみると、コトコトと幽かに音がする。 何かが入っているようだ。 蓋に指をかけようとしたとき。 ぴりっ。 背中に静電気のようなものが走った。 何故か指先が震える。 小箱の重みが増したように感じた。 (……あ) はじかれたように机の上に見た。 万年筆。文庫本。手帳。チョーカー……。 何年も前、これらは全て実家に置いてきたはずだ。 そう。別れた彼女を忘れるために。 もう一度、手の中の小箱を見た。 身体の奥で何かが鳴り響く。 部屋が更に暗くなったように感じた。 だけど。 震える指先で、ゆっくりと蓋を開けた。
瞬間、ぷん、と泥の匂いがした。 箱の中に入っていたのは、泥に塗れた腕時計。 そっと箱の中から取り出し、湿った泥を指で拭った。 「これは……」
その腕時計は、別れた彼女からの贈り物だった。 (これも彼女を忘れる為に実家に――) いや、違う。 この時計だけは、実家の竹薮に投げ捨てた。 一番気に入っていたから。 一番彼女との思い出が詰まっていたから。 だから、捨てた。 あれからすでに何年も何年も経った。 なのに、当然のように、ここに。
その腕時計は捨てることができないまま、今も東沢さんの手元にある。 |
by 時計 ¦ 15:59, Thursday, Nov 16, 2006 ¦ 固定リンク
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