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「俺らが悪かったんだ」 森村氏が呟いた。 夕日が射す彼の部屋。
ソファに身体を沈ませながら、疲れた声で森村氏は話し続ける。 「ほんの戯れ。冗談。成功したら面白いぞ、ってその程度に思っていたんだよ」 少し前のことだった。 彼と友人たちは〈死者を呼び出す〉という実験を行っていた。
薄暗い部屋の中。 本やネットで調べた方法を何種類か試す。 が、悉く失敗に終わった。 残る方法はひとつ。 これが最後だ、と参加メンバー全員で集中する。
どれくらい経ったころだろうか? 突然“それ”は、やってきた。 〈……だ、れ?〉 友人の一人が囁く。 だが、その声はいつもの快活な声ではなくなっている。 陰鬱な響きが多分に含まれていた。
そう。 死者が、やってきたのだ。
“それ”は〈自殺した女性〉だった。 こちらからの問いかけにも一応は答えてくれる。 どうやって死んだのか? 何故死んでしまったのか? 森村氏たちは、死者との会話を愉しんだ。 その合間には彼女は終始恨み言を囁き続ける。 〈死にきれない〉 〈苦しい〉 〈憎い〉 〈恨む〉 〈怨〉
彼らは次第に彼女の話に飽きてきた。 「……疲れたな」と誰かが吐き捨てるように呟く。 「同じことを繰り返すだけだし」 「もう、帰ってもらうか」 満場一致。
「そろそろ帰ってくれないか? 勝手に呼び出して悪いとは思うけど」 メンバーを代表して、森村氏が交渉に入る。 その言葉を聞いた死者は、〈帰らない〉と即答した。 帰ってくれないと困るんだ、と言っても彼女は納得しない。 彼女の言葉に怒りが含まれ始めた。 〈ふざけるな。絶対に帰らない〉 帰ってください、と全員頭を下げる。 〈イヤダ〉 本当にスミマセンでした、と誠心誠意謝罪をする。
それでも彼女は帰らない。 押し問答は延々と続いた。 ついに、森村氏たちはキレた。 死者に向かって罵詈雑言を浴びせかける。 それは死者への冒涜と言っても過言ではなかった。 「そのまま無理矢理帰らせたんだ。ふざけんな! 相手の事情なんか知るもんか、って」
実験後。 その参加メンバーの中の一人がバイク事故で入院。 別の一人は火事で自宅が全焼。 そして自転車盗難を始めとした、事件や事故の多発。 実験参加メンバー全てに災難が降りかかっていた。
「それでさ。その災難全てに関係している事があるんだ」 バイク事故は飛んできたビニールによって引き起こされた。 ビニールの大きさは一メートル四方。 それが走行中にライダーの顔全体に巻きついた。 視界は隠され、操作を誤り転倒。 そして、ビニールに鼻と口を塞がれ窒息寸前に陥った。 結局、死は免れたものの、両手両足の骨折により入院する羽目になった。
火事の原因はガス漏れ。 消防署の現場調査でそれは判明した。 死者が出なかったこと、近隣に延焼しなかったのは、不幸中の幸いだった。 とはいえ、一歩間違うと大惨事になっていたに違いない。
盗まれた自転車は川の中から発見された。 発見当時の自転車は、ビニールで厳重に梱包されていた。 その異常とも言える行動に、何故? と警察も首を捻っていたらしい。
「……そう。ガスとビニールなんだよ」 他のメンバーに襲い掛かった出来事全てにも何らかの形でその二つが関係していた。
森村氏は、更に続ける。 「自分が死んだときのこと、あいつ、こんな風に言っていたんだ」 彼は少しだけ甲高い声で囁いた。 〈わたし、ビニール袋を被ってからね、ガス管を咥えたの。苦しかったぁ……〉
多分あいつ、俺らのこと許してないんだよ、と言って森村氏はため息をつく。 話し終えた彼は、もう一度ソファに深く身体を沈みこませた。 すでに夕日は傾き、部屋の中は薄暗くなってきている。 静寂が辺りを包んだ。
『カ……チッ』 渇いた音がどこからか響く。 何の音だろうか。 そのとき、森村氏と目が合った。
「ガス栓だよ。風呂の」 彼はそう言うと、口の端を歪め、薄く笑った。 |
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受信: 10:10, Thursday, Sep 28, 2006
» ガスとビニール(8) [I'd like to tell you something about ...から] × めがね復活、ということで。 うおーーっ、そーだったのか。と納得しました。 呼び出しておいて、勝手に飽きたから帰れと言われて怒ったのかと思ったら違ったのね。 そりゃ、自殺霊じゃなくてもキレますよ。 他の講評者諸氏のご意見は分かりませんが(例によって未 .. ... 続きを読む
受信: 00:36, Sunday, Oct 08, 2006
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