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死因(2)(ガスとビニール(6))
 風呂場の方から、『カチン』と乾いた音がした。
 そして、静寂。
「……何の音ですか?」
「気にするな」
 森村氏は澱んだ目をこちらに向け、力無く微笑む。
 立ち上がり、少しふらつきながら風呂場へ向かった。
 ついて行こうと腰を浮かせると、彼は背中を向けたまま手を振って制止し、ガラス戸を押し開けた。
 古いユニットバスから、幽かに、ガスの臭い。

 数ヶ月前の事。
 森村氏は友人達と、〈降霊会〉を開いた。
「今考えれば子供っぽい、莫迦な真似をしたもんだと思うがな」
 近場の心霊スポットなどは粗方探検し尽くし、より強い、新たな刺激を求めていた。
 仲間のうち霊感を持つ数名が手筈を整え、〈降霊〉に挑戦する。
 深夜。
 密閉された部屋。
 心細く揺れる蝋燭の灯りの中、男数人で車座を組む。
「開始してすぐに、一人の様子がおかしくなって」
 彼は、座った姿勢のまま失神しているように見えた。
 動揺した仲間達が声をかけても、返答がない。
 やがて、細く長い息。
 薄いセロファンが震えるような、囁き。
「それが、いつもの声じゃない。いや、この世の声じゃなかった」
 錆びついた女の声。
 生者の口を借り紡がれる、彼岸の独白。
 〈降霊〉は、成功した。
 新たな領域へ一歩踏み込んだ気がした。
 しかし、そんな興奮も束の間。
「すぐに後悔したよ。……とてもじゃないが、会話にならないんだ」
 脳を汚染する怨嗟の念が、暗い室内に充満する。
 実験参加者の気力と体力も、急速に奪われていく。
「たまらない。思い出したくもない。この世への恨みの言葉を、延々と、数時間」
 終わりがない。
 出口の見えぬ、死者の泣訴。
 〈彼女〉は自殺者だった。

「……どうやって帰ってもらったんですか?」
「それは何と言うか、無理矢理にな。……中断したんだ」
「中断、ですか」
「霊とのやりとりを何度か経験している奴がいて、半ば力技で終わらせてもらった」
「そ、そんな……」
「終わった後は、本当にぐったりしたよ。皆、口をきく気力もなかった」

 つい先日、参加者の一人が交通事故を起こした。
 通勤中のバイク事故である。
 一メートル四方もの大きなビニール袋が突然覆い被さり、彼のヘルメットを包んだ。
 払い除けようともがくうちに、転倒。
 救急車が到着した際、巻き付いたビニールによって窒息寸前の状態だったと言う。
 彼は両方の手足、つまり四肢を全て、骨折した。

 事故から間もなく、今度は別のメンバーの家が火災に合い、全焼した。
 幸い死者は出さずに済んだが、後の調査で原因はガス漏れだった事がわかった。

 三人目は、自転車を盗まれた。
 通勤に使っていたもので不自由にはなったが、そのメンバーは逆に、安心したと言う。
「そりゃそうだろう。大事故、火事と来て、何か良くない事が降りかかって来ているのはわかったが、所詮は自転車泥棒だからな。<助かった>と思ったらしい。……でも」
 数日後に発見された自転車を見て、血の気が引いた。
 それは、川の中に投げ込まれていた。
 ビニール袋で何重にも何重にも、狂ったように梱包された状態で。

「まだまだあるが、もういい。とにかく、あの〈降霊会〉にいた仲間全員に、な」
「……不幸が?」
「ああ」
「……森村さん、じゃあ、さっきの風呂場の音は」
「ああ」
 室温が、急速に下がっていく。
 部屋を見渡す。
 狭く、古いワンルーム。
 日中だと言うのに、異様に暗い。
 足元の畳の上には、蝋の跡。
「あの女は、こう言ってた。〈ビニール袋を被って、ガス管を咥えて、自殺したの〉と」
「……それは、つまり」


 カチン。

by ガスとビニール ¦ 00:18, Wednesday, Sep 20, 2006 ¦ 固定リンク ¦ 講評(4) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(2) ¦ 携帯

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