冬の「超」怖い話に備えた新人育成  
「超」公開自主トレ  
 

2024年12月
1 2 3
4
5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

最近の記事
おいかけて(時計7)

残されたもの(時計(6))

おくりもの (時計(5))

時計(4)

過去ログ
2006年11月
2006年10月
2006年 9月
2006年 8月

 



死因(2)(ガスとビニール(6))
 風呂場の方から、『カチン』と乾いた音がした。
 そして、静寂。
「……何の音ですか?」
「気にするな」
 森村氏は澱んだ目をこちらに向け、力無く微笑む。
 立ち上がり、少しふらつきながら風呂場へ向かった。
 ついて行こうと腰を浮かせると、彼は背中を向けたまま手を振って制止し、ガラス戸を押し開けた。
 古いユニットバスから、幽かに、ガスの臭い。

 数ヶ月前の事。
 森村氏は友人達と、〈降霊会〉を開いた。
「今考えれば子供っぽい、莫迦な真似をしたもんだと思うがな」
 近場の心霊スポットなどは粗方探検し尽くし、より強い、新たな刺激を求めていた。
 仲間のうち霊感を持つ数名が手筈を整え、〈降霊〉に挑戦する。
 深夜。
 密閉された部屋。
 心細く揺れる蝋燭の灯りの中、男数人で車座を組む。
「開始してすぐに、一人の様子がおかしくなって」
 彼は、座った姿勢のまま失神しているように見えた。
 動揺した仲間達が声をかけても、返答がない。
 やがて、細く長い息。
 薄いセロファンが震えるような、囁き。
「それが、いつもの声じゃない。いや、この世の声じゃなかった」
 錆びついた女の声。
 生者の口を借り紡がれる、彼岸の独白。
 〈降霊〉は、成功した。
 新たな領域へ一歩踏み込んだ気がした。
 しかし、そんな興奮も束の間。
「すぐに後悔したよ。……とてもじゃないが、会話にならないんだ」
 脳を汚染する怨嗟の念が、暗い室内に充満する。
 実験参加者の気力と体力も、急速に奪われていく。
「たまらない。思い出したくもない。この世への恨みの言葉を、延々と、数時間」
 終わりがない。
 出口の見えぬ、死者の泣訴。
 〈彼女〉は自殺者だった。

「……どうやって帰ってもらったんですか?」
「それは何と言うか、無理矢理にな。……中断したんだ」
「中断、ですか」
「霊とのやりとりを何度か経験している奴がいて、半ば力技で終わらせてもらった」
「そ、そんな……」
「終わった後は、本当にぐったりしたよ。皆、口をきく気力もなかった」

 つい先日、参加者の一人が交通事故を起こした。
 通勤中のバイク事故である。
 一メートル四方もの大きなビニール袋が突然覆い被さり、彼のヘルメットを包んだ。
 払い除けようともがくうちに、転倒。
 救急車が到着した際、巻き付いたビニールによって窒息寸前の状態だったと言う。
 彼は両方の手足、つまり四肢を全て、骨折した。

 事故から間もなく、今度は別のメンバーの家が火災に合い、全焼した。
 幸い死者は出さずに済んだが、後の調査で原因はガス漏れだった事がわかった。

 三人目は、自転車を盗まれた。
 通勤に使っていたもので不自由にはなったが、そのメンバーは逆に、安心したと言う。
「そりゃそうだろう。大事故、火事と来て、何か良くない事が降りかかって来ているのはわかったが、所詮は自転車泥棒だからな。<助かった>と思ったらしい。……でも」
 数日後に発見された自転車を見て、血の気が引いた。
 それは、川の中に投げ込まれていた。
 ビニール袋で何重にも何重にも、狂ったように梱包された状態で。

「まだまだあるが、もういい。とにかく、あの〈降霊会〉にいた仲間全員に、な」
「……不幸が?」
「ああ」
「……森村さん、じゃあ、さっきの風呂場の音は」
「ああ」
 室温が、急速に下がっていく。
 部屋を見渡す。
 狭く、古いワンルーム。
 日中だと言うのに、異様に暗い。
 足元の畳の上には、蝋の跡。
「あの女は、こう言ってた。〈ビニール袋を被って、ガス管を咥えて、自殺したの〉と」
「……それは、つまり」


 カチン。

by ガスとビニール ¦ 00:18, Wednesday, Sep 20, 2006 ¦ 固定リンク ¦ 講評(4) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(2) ¦ 携帯

■ Trackback Ping URL 外国のスパマーへのトラップです(本物は下のほうを使ってください)
http://www.chokowa.com/training/blog/trackback.cgi20060920001829

■トラックバック

この記事へのトラックバックURL(こちらが本物):
http://www.chokowa.com/training/blog/blog.cgi/20060920001829

» 死因(2)(ガスとビニール(6)) [ささいな恐怖のささいな裏側から] ×
「ほほう」と思いました。話を聞いているところから始まりましたか。 こういう書き方 ... 続きを読む

受信: 16:16, Wednesday, Sep 20, 2006

» 死因(2)(ガスとビニール(6)) [I'd like to tell you something about ...から] ×
 頑張れ鯖。ということで避難所です。 採話中に起こった怪異。もっと臨場感を、と言ってたらここで来ましたか。 番号選ぶの巧過ぎかも。  畳に残った蝋の跡とか、もう演出が巧い。 その部屋に居座ってますよ縲 ... 続きを読む

受信: 22:45, Thursday, Sep 21, 2006

■講評


■講評を書く

名前:
メールアドレス(任意):    
URL(任意):
この情報を登録する
配点:
講評後に配点を変更する場合は、以前の配点(を含む講評)を削除してから新しい配点を行ってください。
配点理由+講評文:
パスワード(必須):

ヒューマンチェック(選択した計算結果を入力):

△ページのトップへ
 


最近のコメント
viagra online on ガスとビニール(7)

order viagra on ガスとビニール(7)

cheap viagra on ガスとビニール(7)

viagra online on ガスとビニール(7)

最近のトラックバック
Phentermine. (Phentermine cash on delivery.) «

How much adderall can you inje .. (Adderall prescription.) «

Zoo sex. (Zoo sex.) «

Buy viagra online. (Buy viagra uk.) «

Ringtones for motorola. (L word ringtones for motorola krzr by verizon.) «

携帯で読む
   URLを携帯に送る


フリーソフトで作るブログ