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ベッドに潜りこむ。 目をゆっくりと閉じる。 身体から力を抜く。 深呼吸。 次第に意識が融けていく。 (いこう) するっ、と分厚く重いコートを脱ぐような感覚。
長岡君は、肉体を脱ぎ捨てた。 そしてそのまま夜の街へ飛び出す。
彼が“抜ける”ようになったのは、二十歳を過ぎた頃。 初めて抜けた瞬間に感じたのは、恐怖だった。 だが“抜ける感覚”に慣れてくると、それは快楽に変わった。 重い肉体のままでは味わえない開放感とスピード感。 そして、抜けることで空を自由に飛ぶ術を手に入れた。 夜の街に飛び出して空の散歩をすることが、彼の密かな楽しみになった。
その日も彼は肉体を脱ぎ捨て、夜の街へ。 いつもどおりの散歩道。 歩道の上空、高度約二メートルあたりを滑空。 タバコの屋の前で急降下。 アスファルトの表面を舐めるように飛ぶ。 コンビニが見えてきた。 目を瞬かせる強い光。 上昇しながら店内を覗きこんだ。 数人の男女がそれぞれ買い物や立ち読みに興じている。 そのまま通り過ぎ、行きつけの書店を目指す。
街灯に照らされた書店の前を過ぎようとしたとき。 前方の闇の中に、何かが浮かび上がった。
人だ。 それも宙に浮いている。 まるで自分のように。 近づくにつれて、それが男性だと判った。 その顔を見たとき、おもわず息を呑んだ。
(……池田じゃないか!) 友人の一人だった。 むこうも驚いた表情を浮かべている。
(そうか、あいつも“抜ける”ヤツだったのか) ある程度近づいたときに、ふと気付いた。 このままではニアミスしてしまう。 大人二人が空を飛びながらすれ違うには、この歩道は狭すぎるのだ。 慌てて歩道の左側ギリギリに寄る。 それを見たからか、池田君も逆サイドへ寄っていく。 (よし、このままいくぞ)
二人は徐々に接近していく。 何とか通り抜けられそうだ。と、思ったとき。 突然右肩に衝撃を感じた。
刹那。 彼の身体は後方へ引っ張られた。 そのまま、今までの航路を引き戻されていく。 まるでビデオテープのリバース再生のように。
気がつくと、自分の部屋の天井を見ていた。 さっきの出来事をゆっくりと反芻する。 ごそりと起きだし、携帯を手に取った。
数十分後、彼らは居酒屋にいた。
「池田もさぁ、ああいうことできるんだな。驚いたよ」 「そりゃ、お互い様だ」 池田君は苦笑しながらビールを勧めてきた。 彼がグラスを持ち上げようとしたとき。
「痛ッ!」 右肩に鋭い痛みが走った。 慌ててTシャツの袖を捲り上げる。 「ゲッ。なんだこりゃ?」 ちょうど肩の辺りに、青黒い大きな痣ができていた。 鈍い痛みが広がっていく。
「あれま、お前もかよ」 そう言いながら池田君もTシャツの袖を捲り上げた。 そこには同じような青黒い痣。
「さっき抜けてたときに、ぶつけたところだよな?」 にこにこ笑いながら、再びビールを勧めてきた。 今度は左手でグラスを差し出す。 ビールを注ぎながら、池田君がぽつりと言った。 「俺ら抜けてんだからさ、いつもどおりの避け方しなくても、よかったんじゃね?」 |
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