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夏も終わりの暑い夜。 早川君と池田君は居酒屋にいた。 お互いにTシャツの右袖をめくり上げ、頷きあっている。 二人の右肩には、青黒く大きな痣があった。
その夜、早川君は夜の散歩へ出かけていた。 と言っても、肉体を脱ぎ捨て、中身だけで飛び回る散歩だ。 彼は“抜ける人”だった。
自分の身長ぐらいの高さを、歩くような速度で軽やかに飛ぶ。 タバコ屋の角を曲がり、コンビニの脇をすり抜ける。 いつも利用している書店の前に出たとき、向こうから何かが飛んでくるのが見えた。
あっ、とおもわず声を上げた。
飛んでくるのは友人の池田君だった。 向こうも驚いた顔をしている。
(あいつも抜けるヤツだったのか……) そんなことを考えているうちに、二人の距離は縮まってきた。
ここの歩道は、大人二人がすれ違うには少々狭い造りだった。 このまま進めば、衝突してしまう。 彼らはいつもやっているように、歩道の端へ避けた。 すれ違おうとした刹那。
互いの右肩が接触した。
瞬間、後方へガクン、と引っ張られた。 今まで飛んできた道を引き戻されていく。 まるで、ラインの先についたルアーが巻き戻されるがごとく。
気がつくと、自分の部屋で天井を見上げていた。 ベッドの中でさっきの出来事をゆっくりと反芻する。
むくりと起き上がり、携帯を手に取った。 「ああ、池田? うん。そうだな。さっきの書店近くの。あそこの居酒屋に集合な?」 |
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