冬の「超」怖い話に備えた新人育成  
「超」公開自主トレ  
 

2024年12月
1 2 3
4
5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

最近の記事
おいかけて(時計7)

残されたもの(時計(6))

おくりもの (時計(5))

時計(4)

過去ログ
2006年11月
2006年10月
2006年 9月
2006年 8月

 



幽体離脱接近遭遇(2)
「……どう表現したらいいのか」
 早川君は呟くように話し始めた。


 彼は空を飛べる。
 目線と変わらないくらいの高さを、歩くような速度で。
 ただ、物質としての肉体は自宅に放置したままだ。

 彼は、肉体を抜け出すことができた。


 初めて【抜けた】のは、まだ二十歳前の頃。

 当然、恐怖を感じた。果たして元の体に戻れるのか、と不安も覚えた。
 抜けでたところで、鳥のような自由さで空を飛べるわけではない。
 バイクで疾走するようなスピード感を味わえる訳でもない。
 それでも病み付きになった。
 痺れるような「解放感」が彼を圧倒したからだった。
 以来、抜けることが密かな楽しみとなった。

 とはいえ、望んだ時に必ず抜けられるとは限らない。
 だから、チャンスが訪れたら全力で楽しむ、と決めた。


 ある夏の終わり頃。
 その夜は久しぶりに“密かな楽しみ”のチャンスが訪れていた。
 さっそく肉体を抜け、夜の街へ飛び出す。
 開放感が彼の脊髄を貫いた。

 いつもやっているように、地元の商店街を飛ぶ。
 塾帰りの子ども。
 管を巻く酔っ払い。
 コンビニの前で群れる茶髪たち。
 軽やかにそれらの間をすり抜ける。
 時折、地面スレスレを飛んで、スリルを味わってみることも忘れない。

 馴染みの書店に差し掛かったとき。
 前方から自分と似たような〈モノ〉が近づいてくるのに、気がついた。
 それは、酔っぱらいの合間を縫い、居酒屋の置き看板をするりとかわして、宙を滑るように近づいてくる。

「そいつ、よく見たら友人の池田なんです」

(こいつも【抜ける】奴だったのか)
 不意に目が合った。
 向こうもこちらに気づいたようだ。

「……」

 二人、なんとなく曲芸じみた動きをやめ、無言で接近していく。

(やっぱ、通りづらいな……)
 ここの歩道はかなり狭い。
 彼はいつもどおりに、歩道の左側に避けた。
 池田君はその逆へ。
 二人は無言のまま道を譲り合い、すれ違う。

 その時、僅かにだが、互いの右肩が接触した。

「あ」

 体がガクン、と後へ引っ張られた。
 そのまま、もと来た道を引き戻されていく。
 視界の端に、後方へ飛んでいく池田君を捉えた。
 が、どうすることもできなかった。


 気がつくと、自分の部屋に戻っていた。
 さっきの出来事を反芻する。
 すぐさま跳ね起きて、電話をかけた。
「池田? うん、そうそう。じゃ、そこで」

 数十分後。
 二人は、さっき出会わした現場そばの居酒屋にいた。
「まさか、お前もアレができるなんて」
「そりゃこっちの台詞だっつの」
 仲間を見つけた喜びで盛り上がる。

 以来、彼らは秘密を共有する「同好の士」となった。


 そこまで話し終えると、早川君はおもむろにTシャツの袖をまくり上げた。
 その右肩に、薄くなった痣が残っていた。

「池田にも、同じような痣が残ってますよ」
 そう言って彼は微笑んだ。

by 幽体離脱接近遭遇 ¦ 13:00, Saturday, Aug 26, 2006 ¦ 固定リンク ¦ 講評(4) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(2) ¦ 携帯

■ Trackback Ping URL 外国のスパマーへのトラップです(本物は下のほうを使ってください)
http://www.chokowa.com/training/blog/trackback.cgi20060826130000

■トラックバック

この記事へのトラックバックURL(こちらが本物):
http://www.chokowa.com/training/blog/blog.cgi/20060826130000

» 幽体離脱接近遭遇(2) [ささいな恐怖のささいな裏側から] ×
文体が比較的シリアスです。でも、この話をシリアスに語るのは、どうかな。話そのもの ... 続きを読む

受信: 11:04, Sunday, Aug 27, 2006

» 幽体離脱接近遭遇(2) [I'd like to tell you something about ...から] ×
 (1)をからっとした仕上がりとすると、今回はしっとりという感じかな。 実際この話は「恐怖譚」というより「不思議な話」。その「不思議さ」、「「幽体離脱」自体珍しいのに体験者の友人も同じ体験を同時刻にしてしかも出会った」という、もっとレアな体験談。そこ .. ... 続きを読む

受信: 23:33, Thursday, Aug 31, 2006

■講評


■講評を書く

名前:
メールアドレス(任意):    
URL(任意):
この情報を登録する
配点:
講評後に配点を変更する場合は、以前の配点(を含む講評)を削除してから新しい配点を行ってください。
配点理由+講評文:
パスワード(必須):

ヒューマンチェック(選択した計算結果を入力):

△ページのトップへ
 


最近のコメント
viagra online on ガスとビニール(7)

order viagra on ガスとビニール(7)

cheap viagra on ガスとビニール(7)

viagra online on ガスとビニール(7)

最近のトラックバック
Phentermine. (Phentermine cash on delivery.) «

How much adderall can you inje .. (Adderall prescription.) «

Zoo sex. (Zoo sex.) «

Buy viagra online. (Buy viagra uk.) «

Ringtones for motorola. (L word ringtones for motorola krzr by verizon.) «

携帯で読む
   URLを携帯に送る


フリーソフトで作るブログ