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「……どう表現したらいいのか」 早川君は呟くように話し始めた。
彼は空を飛べる。 目線と変わらないくらいの高さを、歩くような速度で。 ただ、物質としての肉体は自宅に放置したままだ。
彼は、肉体を抜け出すことができた。
初めて【抜けた】のは、まだ二十歳前の頃。
当然、恐怖を感じた。果たして元の体に戻れるのか、と不安も覚えた。 抜けでたところで、鳥のような自由さで空を飛べるわけではない。 バイクで疾走するようなスピード感を味わえる訳でもない。 それでも病み付きになった。 痺れるような「解放感」が彼を圧倒したからだった。 以来、抜けることが密かな楽しみとなった。
とはいえ、望んだ時に必ず抜けられるとは限らない。 だから、チャンスが訪れたら全力で楽しむ、と決めた。
ある夏の終わり頃。 その夜は久しぶりに“密かな楽しみ”のチャンスが訪れていた。 さっそく肉体を抜け、夜の街へ飛び出す。 開放感が彼の脊髄を貫いた。
いつもやっているように、地元の商店街を飛ぶ。 塾帰りの子ども。 管を巻く酔っ払い。 コンビニの前で群れる茶髪たち。 軽やかにそれらの間をすり抜ける。 時折、地面スレスレを飛んで、スリルを味わってみることも忘れない。
馴染みの書店に差し掛かったとき。 前方から自分と似たような〈モノ〉が近づいてくるのに、気がついた。 それは、酔っぱらいの合間を縫い、居酒屋の置き看板をするりとかわして、宙を滑るように近づいてくる。
「そいつ、よく見たら友人の池田なんです」
(こいつも【抜ける】奴だったのか) 不意に目が合った。 向こうもこちらに気づいたようだ。
「……」
二人、なんとなく曲芸じみた動きをやめ、無言で接近していく。
(やっぱ、通りづらいな……) ここの歩道はかなり狭い。 彼はいつもどおりに、歩道の左側に避けた。 池田君はその逆へ。 二人は無言のまま道を譲り合い、すれ違う。
その時、僅かにだが、互いの右肩が接触した。
「あ」
体がガクン、と後へ引っ張られた。 そのまま、もと来た道を引き戻されていく。 視界の端に、後方へ飛んでいく池田君を捉えた。 が、どうすることもできなかった。
気がつくと、自分の部屋に戻っていた。 さっきの出来事を反芻する。 すぐさま跳ね起きて、電話をかけた。 「池田? うん、そうそう。じゃ、そこで」
数十分後。 二人は、さっき出会わした現場そばの居酒屋にいた。 「まさか、お前もアレができるなんて」 「そりゃこっちの台詞だっつの」 仲間を見つけた喜びで盛り上がる。
以来、彼らは秘密を共有する「同好の士」となった。
そこまで話し終えると、早川君はおもむろにTシャツの袖をまくり上げた。 その右肩に、薄くなった痣が残っていた。
「池田にも、同じような痣が残ってますよ」 そう言って彼は微笑んだ。 |
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