■「弩」怖い話が進むふたつの道
すでに何度か触れていますが、「弩」怖い話は怪談の見せ方/調理法の開拓と、ネット怪談のペーパーメディアへの保存を目的としています。 が、このうち、ネット怪談の保存は様々な思惑や利権、理念が複雑に絡み合っているものでもあり、一朝一夕に解決することは難しいでしょう。 何より原体験者/原投稿者の同意を何らかの形で保証されない限りは、出版社も動きづらいですし、同時に投稿者の方々が「印税ウハウハ伝説」の虜囚から脱していくよう働きかけていくことも重要だと思います。 そういう諸問題を鑑みた上で、「弩」怖い話が進む道は当面はふたつあります。
■ペーパー・ストレージ
「弩」怖い話は、ネット怪談をペーパー・ストレージに、もっとも廉価にバックアップする方法のひとつと考えられます。同じことを同人誌で作ると、一冊の単価は1000円以上になり、配布・頒布にはさらにこれを上回るコストがかかってしまいます。入手のための利便性も下がります。電子媒体への保存は、すでに怪談コレクターの皆様が各自の努力としてなさっておられることと思いますが、それとは別に「本という紙束に保存する」ことには、それなりにメリットが多く存在します。 ただ、このペーパー・ストレージという考え方は、その中間で生まれる必要なコストを受け入れることができるかどうかという問題を同時に発生させるでしょうし、費用(コスト)の透明化も求められるでしょう。元の投稿者の権利の保証とそれに伴う報酬、支払い方法、経理などの透明化も、一般的な出版基準に準じる形で求められるでしょう。 そうした様々な問題を克服して、怪談を保存するペーパー・ストレージを目指す、というのが、「弩」怖い話にとって理想的な未来のひとつです。
■足し算の怪談の書
もうひとつの未来は、ネット怪談の保存という方向性は諦めて、引き算の怪談である「超」怖い話に対するもうひとつの極である「足し算の怪談」という方向性を極めていくことに特化専念する、というものです。 「弩」怖い話というタイトルは、もともと前述のペーパー・ストレージへの進化を目指した企画のために用意されたものではありますが、このプロジェクトの理念が時期尚早であると判断された場合には、当面、そちらの方向については時機が熟すのを待つしかないかと思われます。 ただ、「もう一度碇を上げる」ときのため、怪談のペーパー・ストレージとしての必要を求められたときに、いつでもその求めに応えられる受け皿としての役目を再開できるようにするため、シリーズとして息長く続けていけるのであれば、この「弩」怖い話という名前の旗は降ろさずにおきたい。そのように考えています。
いずれにせよ、ネット上の投稿者を著者として遇するための試みは、まだ多くの挑戦者によって始められたばかりです。 この課題について、我々全てが納得できる何らかの結論を得るのにはまだ早すぎるのかもしれません。そうした様々な試みは、今後いくつも首をもたげてくるでしょう。もし「弩」怖い話が多くの満足できる理解と支持を得られなかった場合でも、「弩」怖い話での教訓が次の誰かの果敢な試みに活かされていくことを、一介の怪談好きとして望んで止みません。
いつか、この真夜中の闇の中に置かれた問題が夜明けに向かって進み、解決の朝を迎える日が訪れますように。
―― 加藤 一 2004.3.30
|